有島武郎(ありしまたけお)
1878〜1923年、東京都出身。
「生れ出づる悩み」「或る女」などで知られる白樺派の作家。女性からかなりモテたことは有名。人妻の波多野秋子と軽井沢の別荘浄月庵にて情死し、自ら人生の幕をおろしました。
以下、彼の小説に出てくる四字熟語をいくつか紹介します。
◎有島武郎『或る女』
「一心不乱(いっしんふらん)」
日あたりのいい縁側に定子がたった一人ひとり、葉子にはしごき帯を長く結んだ後ろ姿を見せて、一心不乱にせっせと少しばかりのこわれおもちゃをいじくり回していた。
「大胆奔放(だいたんほんぽう)」
当時病天才の名をほしいままにした高山樗牛らの一団はニイチェの思想を標榜して「美的生活」とか「清盛論」というような大胆奔放な言説をもって思想の維新を叫んでいた。
「半死半生(はんしはんしょう)」
しかしその酔いがさめたあとの苦痛は、精神の疲弊と一緒に働いて、葉子を半死半生の堺に打ちのめした。
「二束三文(にそくさんもん)」
住居は住居で、葉子の洋行後には、両親の死後何かに尽力したという親類の某が、二束三文で譲り受ける事に親族会議で決まってしまった。
「人事不省(じんじふせい)」
幾時間かの人事不省の後に意識がはっきりしてみると、葉子は愛子とのいきさつをただ悪夢のように思い出すばかりだった。
「四方八方(しほうはっぽう)」
あなただけに限られずに、四方八方の人の心に響くというのは恐ろしい事だとはほんとうにあなたには思えませんかねえ。
「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」
その当時は日露の関係も日米の関係もあらしの前のような暗い徴候を現わし出して、国人全体は一種の圧迫を感じ出していた。臥薪嘗胆というような合い言葉がしきりと言論界には説かれていた。
「異国情調(いこくじょうちょう)」
それだのに目の前に異国情調の豊かな贅沢品を見ると、彼女の貪欲は甘いものを見た子供のようになって、前後も忘れて懐中にありったけの買い物をしてしまったのだ。
「無理無体(むりむたい)」
けれどもあの涙も内田が無理無体にしぼり出させるようなものだと思い直すと、心臓の鼓動が止まるほど葉子の心はかっとなった。
水底が浅くなったために無二無三に乱れ立ち騒ぐ波濤の中を、互いにしっかりしがみ合った二艘の船は、半分がた水の中をくぐりながら、半死のありさまで進んで行った。
「千変万化(せんぺんばんか)」
荒磯に波また波が千変万化して追いかぶさって来ては激しく打ちくだけて、まっ白な飛沫ひまつを空高く突き上げるように
「中途半端(ちゅうとはんぱ)」
別室に妹の駆け込んだのを見向きもしない愛子の不人情さを憤る怒りと、命ぜられた事を中途半端でやめてしまった貞世を憤る怒りとで葉子は自制ができないほどふるえていた。
◎有島武郎『生れ出づる悩み』
「未来永劫(みらいえいごう)」
ある程度まで心を触れ合ったどうしが、いったん別れたが最後、同じこの地球の上に呼吸しながら、未来永劫またと邂逅めぐりあわない……それはなんという不思議な、さびしい、恐ろしい事だ。
「右往左往(うおうさおう)」
さながら風の怒りをいどむ小悪魔のように、面憎つらにくく舞いながら右往左往に飛びはねる。
「一心不乱(いっしんふらん)」
そして君は、着込んだ厚衣あつしの芯しんまで水が透って鉄のように重いのにもかかわらず、一心不乱に動かす手足と同じほどの忙せわしさで、
◎有島武郎『かんかん虫』
「四角四面(しかくしめん)」
擦った揉んだの最中に巡的だ、四角四面な面あしやがって「貴様は何んだ」と放言こくから「虫」だと言ってくれたのよ。
「馬鹿正直(ばかしょうじき)」
仕舞には我慢がしきれな相に、私の言葉を奪ってこう云った。探偵でせえ無けりゃそれで好いんだ、馬鹿正直。