《連想四字熟語》村上春樹『1Q84』から連想する3つの四字熟語

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▼これが『1Q84』から連想する四字熟語です

覧古考新(らんここうしん)

古い事柄を顧みて、新しい問題を考察することを「覧古考新」といいます。

「1Q84」は、ジョージ・オーウェルの近未来小説「1984年」を土台に書かれました。
「1984年」は核によって荒廃し大国によって統制された世界が舞台の小説ですが、「1Q84」は核や体制による統制による話ではありません。
そのかわりに出てくるのは宗教や暴力といった、人間に対して普遍的な影響を与えるものです。

村上春樹はこの小説を書いたとき、地下鉄サリン事件や阪神淡路大震災が背景にあったと語っています。
さらに「物語というのは、一旦ハマると抜けられなくなるような『精神的な囲い込み』に対抗するものでなくてはいけない」とも。

「1Q84」は今起こっている問題を「覧古考新」することで生み出された物語です。
天吾と青豆という登場人物の行動や彼らを取り巻くものが、読者の心にどんな影響を与えるようになるのでしょうか。

衆人環視(しゅうじんかんし)

大勢の人々が周囲を取り巻いて見ていることを「衆人環視」といいます。

「1Q84」のなかで登場する印象的なものに、リトルピープルがあります。
リトルピープルは他の作品に出てくるやみくろや羊男と同じように、象徴としては存在するけれど言語化できないものです。

主人公の一人である天吾はふかえりという高校生の小説を手直ししますが、その作業とリンクするように、
その小説の中にしかいないはずのリトルピープルと2つの月が現実へと侵出していきます。

リトルピープルの存在を世に知らしめてしまった天吾とふかえり。
リトルピープルの存在とともにあらわになっていく「さきがけ」というグループや、さきがけのリーダーを暗殺しようとしている青豆が所属する組織。
いくつもの断片がお互いに干渉していき、物語は複雑な様相を極めます。

天吾はあるとき、意識不明の状態に陥った父のそばで気がつきます。
ーー月がいくつあろうとも、自分という人間は一人しかいない。自分は自分でしかなく、固有の資質や問題を抱えた一人の人間でしかない。話のポイントは月が2つある世界ではなく、彼自身にあるのだーーと。

天吾が自分自身の問題に気がついた時、別次元の産物だったリトルピープルが今までと違う意味を持つようになります。
ではいったいリトルピープルはどんな存在へと変化したのでしょうか。
それは「天吾が見ていたもの」から「天吾を見ているもの」への変化です。

リトルピープルは、ジョージオーウェルが「1984年」で書いたビッグブラザーの対比として描かれています。
ビッグブラザーが独裁的な性格をもつ存在であるとすれば、リトルピープルとは相互的な監視社会を意味しているのではないでしょうか。

話の中だけにいた、架空の存在であるはずのリトルピープル。
そのリトルピープルに「衆人環視」される世界へといつのまにか移っていた天吾。
自分が別の世界に移ったことに気がついた天吾は、青豆の少女時代の姿が入った「空気さなぎ」をみつけ、今の青豆を探す決意をします。
しかしその行動は、リトルピープル以外の存在からも「衆人環視」されることになるのです。

撥乱反正(はつらんほんせい)

世の乱れを治め、もとの平和の世に返すことを「撥乱反正」といいます。

登場人物は変化してしまった世界の流れに対し「撥乱反正」を望み、各々が動き出していきます。
青豆は、さきがけという巨大なシステムから天吾を守るために。
天吾は、ふかえりをマスコミから守るために。
ふかえりは、天吾と青豆の繋がりをリトルピープルから守るために。
さきがけの手先である牛河は、システムに利用されながらも自分の信念を守るために。

各々が自分の正義や信念に則って行動し、お互いに干渉したいと深く求め合う。
それらがうまくかみ合うことで、新しい世界への道が開かれていくのです。

ところで、村上春樹がエルサレムの受賞スピーチで壁と卵の話をしたのを覚えているでしょうか。
スピーチの中で、壁はシステムであり卵はその犠牲となる個人のメタファーだ、と言いました。
小説家は壁ではなく、卵に寄り添うべきである、とも。
さらに「1Q84」を契機に、主題がデタッチメント(関わらないこと)からコミットメント(繋がりをもつこと)へと変わった、と別のインタビューで話しています。

ただ「1Q84」においては、壁を否定することも個を重要視することもなく、もちろん正義を振りかざすことが本質でもありません。
個が個である為には繋がることが必要だ、という逆説的な観念。
それこそが「1Q84」のテーマになっている気がしてなりません。

そしてその繋がりを生み出すのは正義やシステムではなく、愛という極めて個人的で形のないものです。
「精神的な囲い込み」を強要してくるような歪な社会を「撥乱反正」するために必要なのは極めて個人的な、しかし普遍的でもある「愛」しかないのだ、と村上春樹はこの物語で言いたかったのではないでしょうか。

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